「退職金をもらったら、どう運用すればいいのだろう?」
50代になると、そんなことを考える機会が増えてきます。
長年働いてきた結果として受け取る退職金。
500万円、1,000万円、2,000万円、中にはそれ以上という人もいるでしょう。
まとまったお金を手にすると、
「銀行に置いておくだけではもったいない」
「NISAで運用したほうがいいのでは?」
「株式投資で増やしたほうがいい?」
と考えてしまうかもしれません。
しかし、50代の退職金運用で最も大切なのは、
「何に投資するか」ではありません。
その前に、
「その退職金を、いつ、何のために使うのか」
を考えることです。
退職金は、長年働いてきた自分の人生の成果です。
だからこそ、ただ増やすためのお金ではなく、
これからの人生を支えるお金
として考える必要があります。
退職金は「投資資金」ではなく「人生資金」
退職金を受け取ると、
「せっかくまとまったお金が入ったのだから、運用して増やそう」
と考えがちです。
しかし、退職金の本来の役割は「投資」ではありません。
例えば、
- 60歳以降の生活費
- 年金受給開始までの生活費
- 住宅ローンの返済
- 住宅のリフォーム
- 車の購入
- 医療費
- 介護費
- 夫婦の旅行
- 趣味
- 親族への支援
- 将来、家族に残すお金
など、さまざまな使い道があります。
つまり退職金は、
「これからの人生を支える大切な資産」
なのです。
そのため、退職金を受け取ったからといって、すぐに全額を投資する必要はありません。
50代の退職金運用で最初にやること
退職金を受け取ったら、いきなり金融商品を探すのではなく、まず「人生のお金」を整理してみましょう。
おすすめしたいのが、退職金を次の3つに分けて考える方法です。
① すぐに使うお金
生活費や急な出費に備えるお金です。
② 数年以内に使うお金
住宅、車、旅行、リフォーム、医療・介護などに使う予定のお金です。
③ 当面使わないお金
10年以上使う予定がなく、長期運用を考えられるお金です。
このうち、
運用を検討する中心は③です。
金融庁でも、退職金などを運用する場合には、当面の生活資金や予備資金を確保したうえで、当面使う予定のない資金について運用を検討する考え方が示されています。
退職金を全額投資する必要はない
例えば退職金が1,000万円だったとします。
この1,000万円を、
「NISAに全部入れよう」
「株式に全部投資しよう」
と考える必要はありません。
むしろ、
「1,000万円のうち、何年以内にいくら使うのか」
を考えることが先です。
例えば、
- 300万円=生活防衛資金
- 200万円=数年以内の旅行・車・住宅関連
- 200万円=老後の現金資金
- 300万円=長期運用
というように、役割を分けることができます。
この場合、運用を検討するのは300万円です。
つまり、
退職金1,000万円の30%を運用する
という結果になります。
重要なのは「30%が正解」ということではありません。
自分の生活設計から計算した結果として、30%になったということです。
退職金運用に「正解」はない
「50代の退職金は何%運用すればいい?」
という質問に対して、私は、
「人によって違います」
と答えたいと思います。
例えば、
Aさん
退職金1,500万円
持ち家あり
住宅ローンなし
年金も比較的多い
65歳以降も働く予定
この人と、
Bさん
退職金1,500万円
賃貸住宅
住宅ローンあり
60歳で完全リタイア予定
年金だけでは生活費が不足
という人では、同じ1,500万円でも運用できる金額は変わります。
だから、
「50代なら退職金の50%を投資」
といった一律のルールを作る必要はありません。
退職金を運用する前に「老後の収支」を計算する
退職金運用を考えるなら、まず老後の収支を計算してみましょう。
例えば、
毎月の生活費
25万円
年金
20万円
だったとします。
単純化すると、
毎月5万円の不足です。
年間では、
5万円 × 12カ月 = 60万円
となります。
10年間なら、
60万円 × 10年 = 600万円
です。
もちろん実際には税金、社会保険料、医療費、物価上昇なども考える必要があります。
しかし、こうして計算してみると、
「老後に必要なお金はどのくらいなのか」
が見えてきます。
そして、その不足分を、
- 預貯金
- 年金
- 働いて得る収入
- 投資資産の取り崩し
などでどう補うのかを考えます。
退職金運用では「増やす」より「減らさない」も重要
現役時代の投資では、
「資産を増やす」
ことが大きな目的になります。
しかし、退職後のお金では、
「必要なときに必要なお金が残っていること」
も非常に重要です。
例えば、1,000万円を投資して、
1年後に1,200万円になった。
これは素晴らしい結果です。
しかし、
1,000万円が700万円になってしまった。
という可能性もあります。
株式などの価格変動の大きな資産では、元本割れする可能性があります。
そのため、
「退職金=運用して増やすお金」
と考えるのではなく、
「退職金=守りながら一部を育てるお金」
と考えることが重要です。
50代の退職金運用で怖いのは「最初の大きな損失」
退職金運用で注意したいのが、
退職直後の大きな相場下落
です。
例えば退職金1,000万円をすべて株式などに投資した直後、市場が30%下落したとします。
資産は単純計算で700万円になります。
その時点で生活費が必要になれば、価格が下がった状態で売却しなければならない可能性があります。
これが、退職後の資産運用で注意したいポイントです。
長期投資では、相場が下落しても時間をかけて回復を待てる場合があります。
しかし、
「5年後に使う予定のお金」
を株式市場の値動きに任せるのは、慎重に考える必要があります。
退職金は「時間軸」で運用方法を変える
退職金を運用する場合、すべてを同じ商品で運用する必要はありません。
例えば、
1~3年以内に使うお金
→ 現金・預貯金などを中心にする
3~10年程度で使う可能性があるお金
→ 値動きの大きさを抑えながら運用を検討する
10年以上使わないお金
→ 株式や投資信託などを含めた長期運用を検討する
というように、
「使う時期」に合わせてリスクを変える
考え方があります。
これは50代の退職金運用で非常に重要な考え方です。
NISAを退職金運用に活用する
退職金の運用を考える際、NISAを活用する方法もあります。
NISAは、一定の投資について運用益などが非課税になる制度です。
2024年からのNISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠を利用でき、非課税保有期間は無期限です。
ただし、
「退職金をNISAに全部入れる」
という意味ではありません。
NISAはあくまで税制上の優遇制度です。
投資そのもののリスクをなくしてくれるわけではありません。
そのため、
「何に投資するか」
「いくら投資するか」
「いつ使うのか」
を考えたうえでNISAを利用することが大切です。
NISAのつみたて投資枠では、長期・積立・分散投資に適した一定の商品が対象になっており、金融庁は対象商品を公開しています。2026年9月7日にも対象商品一覧が更新されています。
退職金を一括投資するか、分けて投資するか
まとまった退職金を受け取ったとき、
「一度に投資するべきか?」
「少しずつ投資するべきか?」
という問題があります。
これにも絶対的な正解はありません。
一括投資には、
早く市場に投資できる
というメリットがあります。
一方で、投資直後に相場が大きく下落すると、精神的な負担が大きくなります。
分散して投資する方法には、
投資タイミングを分散できる
というメリットがあります。
例えば300万円を運用する場合、
100万円ずつ3回に分ける、
50万円ずつ6回に分ける、
など、自分が精神的に安心できる方法を選ぶこともできます。
重要なのは、
「自分が続けられる方法」
であることです。
退職金を「銀行の言うまま」にしない
退職金を受け取ると、金融機関から、
「退職金専用プラン」
「特別金利」
「投資信託セットプラン」
などを案内されることがあります。
もちろん、良い商品やサービスもあります。
しかし、
「退職金が入ったから、銀行がおすすめする商品を買う」
という決め方は避けたいところです。
退職金は、何十年も働いてきた結果として得た大切な資産です。
だからこそ、
- 手数料はいくらか
- 何に投資するのか
- どの程度値下がりする可能性があるのか
- いつ使うお金なのか
- 本当に必要な商品なのか
を確認しましょう。
「おすすめされたから買う」のではなく、
「自分の人生設計に必要だから買う」
という順番が大切です。
退職金の税金も確認しておく
退職金を受け取るときには、運用だけでなく税金についても確認しておきましょう。
退職金は原則として「退職所得」として扱われ、退職所得控除や分離課税などにより、他の所得とは異なる税制上の扱いがあります。国税庁によると、一般的な退職所得は、
(収入金額-退職所得控除額)×1/2
という計算方法が基本です。
退職所得控除額は、勤続年数によって計算方法が異なります。
例えば勤続年数が20年を超える場合、
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
となります。
ただし、過去の退職金や企業型DC・iDeCoなどの受け取り方、受け取る時期などによって計算が変わる場合があります。
そのため、実際に退職金を受け取るときには、勤務先や税理士、税務署などで確認することをおすすめします。
退職金とiDeCo・企業型DCは「受け取り方」も重要
退職金を考えるときには、勤務先からの退職金だけでなく、
- 企業型確定拠出年金
- iDeCo
- 確定給付企業年金
なども含めて考える必要があります。
特に、退職金と年金制度からの一時金をどのタイミングで受け取るかによって、税金の扱いが変わる場合があります。
「退職金はいくら?」
だけを見るのではなく、
「老後に受け取る一時金・年金を全部合わせるとどうなるのか?」
を確認することが重要です。
退職金運用でやってはいけない3つのこと
ここまでの内容を踏まえて、特に避けたいことを3つ挙げます。
① 退職金をいきなり全額投資する
生活資金まで投資してしまうと、相場下落時に売却を迫られる可能性があります。
まず必要資金を確保しましょう。
② 「高利回り」という言葉だけで商品を選ぶ
高いリターンを期待できる商品ほど、一般的にはリスクも大きくなります。
「年○%」という数字だけで判断しないことが重要です。
③ 人から勧められた商品を理解せずに買う
退職金は大きな金額になりやすいため、手数料の違いも長期では大きな差になります。
「なぜこの商品を買うのか?」
を自分で説明できる状態にしておきましょう。
50代の退職金運用は「守る・増やす・使う」
私は、50代からの退職金について、
「守る」
「増やす」
「使う」
の3つに分けて考えることをおすすめします。
守る
生活費、医療費、介護費、近い将来に必要なお金。
増やす
10年以上使わない可能性が高い資金。
使う
旅行、趣味、健康、学び、家族との時間など、人生を豊かにするためのお金。
この3つをバランスよく考えることが大切です。
退職金は「老後のために全部残すお金」なのか?
ここで、少し考えてみたいことがあります。
退職金を受け取ると、
「これは老後のお金だから、できるだけ使わないようにしよう」
と考える人も多いでしょう。
もちろん、老後への備えは重要です。
しかし、50代、60代はまだ体力もあり、旅行や趣味などを楽しみやすい時期でもあります。
例えば、
「70歳になったら海外旅行をしよう」
と思っていても、健康状態や体力、家族の事情によっては、実現できない可能性があります。
だからこそ、
「将来のために残すお金」と「今の人生を楽しむためのお金」
を分けて考えることが大切です。
お金には「思い出の配当」もある
お金を使ったら、資産は減ります。
しかし、すべての支出が「損失」ではありません。
夫婦で旅行に行った。
好きなバイクでツーリングをした。
昔から行きたかった場所に行った。
美味しい料理を食べた。
家族や友人と楽しい時間を過ごした。
こうした経験は、銀行口座の残高には残りません。
しかし、
人生の記憶として残ります。
「Die With Zero」という考え方では、人生の経験を得るためのお金の使い方も重要なテーマになります。
退職金も、
「どうすれば一番増えるか」
だけではなく、
「どう使えば人生が豊かになるか」
を考えてみる価値があります。
退職金運用は「資産形成」から「資産活用」への転換点
50代の退職金運用を考えるとき、私はここが一番重要だと思います。
現役時代は、
収入 → 貯蓄 → 投資 → 資産形成
という流れです。
しかし、退職が近づくと、
資産形成 → 資産活用
へ少しずつ変化していきます。
つまり、
「どうやって増やすか」
だけではなく、
「どうやって取り崩すか」
を考える時期に入るのです。
金融庁も、リタイア期前後について、退職金を踏まえたマネープラン、資産運用の継続、計画的な取り崩しを検討することを示しています。
これは「投資をやめる」という意味ではありません。
必要な資金を使いながら、残った資産を長く運用する
という考え方です。
50代の退職金運用で考えたい「5つの質問」
最後に、退職金を運用する前に次の5つを考えてみてください。
① 退職金はいくら受け取れる?
会社の退職金規定や企業年金、確定拠出年金などを確認します。
② 60~65歳までにいくら必要?
退職後から年金受給までの生活費を計算します。
③ 年金はいくら受け取れる?
「ねんきんネット」などを使って確認します。
④ 退職金のうち、10年以上使わないお金はいくら?
ここが長期運用を検討できる金額です。
⑤ お金を使って何をしたい?
旅行、趣味、健康、学び、家族との時間など、人生の目的を考えます。
50代の退職金運用に「一つの正解」はない
退職金運用というと、
「おすすめの投資信託は?」
「株式と債券は何%?」
「NISAで運用したほうがいい?」
といった話になりがちです。
しかし、その前に考えるべきことがあります。
「自分はどんな老後を送りたいのか?」
です。
毎月いくら必要なのか。
いつまで働くのか。
年金はいくらなのか。
住宅費はいくらなのか。
医療や介護にどのくらい備えるのか。
旅行や趣味にはいくら使いたいのか。
家族にいくら残したいのか。
こうしたことを整理して初めて、
「では、退職金のうちいくらを運用しようか」
という話になります。
退職金は「人生の最後のお金」ではない
退職金を受け取るということは、
「仕事人生が終わった」
という意味だけではありません。
むしろ、
「これからの人生を自分でデザインするための資金を受け取った」
と考えることもできます。
退職金を守る。
一部を運用する。
必要なときには取り崩す。
そして、旅行や趣味、家族との時間など、自分が本当にやりたいことに使う。
それでいいのではないでしょうか。
お金は、ただ残高を増やすためにあるのではありません。
お金は人生を豊かにするための手段です。
50代からの退職金運用では、
「増やすこと」だけではなく、「守る・使う・残す」
という視点を持ってみましょう。
退職金を「老後まで絶対に減らしてはいけないお金」と考えるのではなく、
「これからの人生を豊かにするための大切な資産」
として考える。
それが、マネーライフデザインが考える50代からの退職金運用です。


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